【志塾】シマの研究者になろう!
9月13日、「シマの研究者になろう!」ワークショップが行われました。
9月のプログラムのテーマは、シマのことば「シマぐち」の研究です。
~どこから変わる? 言葉の境界線を探れ!~
今回は集落に飛び出し、フィールドワークを行いました。
シマぐち(奄美語または奄美方言)は、鹿児島県の奄美群島で話される言語(方言)で、琉球諸語(琉球語・琉球方言)の一つです。2009年2月には、ユネスコにより消滅危機言語の「危険(definitely endangered)」に分類されました。(Wikipediaより)
明治から昭和にかけて国によって行われた標準語励行運動により、日本全体としても方言は失われていきました。奄美大島では学校で方言を使うと罰せられるというような状況もありました。
-------
奄美大島は山がちで平地が少なく、海岸線に沿って集落が点在しています。
かつて集落間の移動には小舟が使われることもあり、そのため、同じ島の中でも隣の集落で言葉が違うことがあります。さらに北部と南部では、大きな違いが見られます。
では、その「言葉の境界線」は、いったいどこにあるのでしょうか?
今日は、奄美大島の中部に位置する住用町にやってきました。
島の真ん中から、言葉の境界線を探ってみようというわけです。
(出発の前に)
朝9時30分、いいお天気! 奄美市住用町の体験交流館に集合しました。

まずは班分けです。今日は7つの集落にお邪魔させていただきます。
川内(かわうち)・城(ぐすく)・見里(みざと)・西仲間(にしなかま)・
山間(やんま)・市(いち)・下役勝(したやくがち)
さあ、それぞれ行く集落が決まりました。ミッションシートと聴き取り調査表を渡されました。
どんな風にインタビューすれば良いのかをみんなで確認します。
大きくゆっくりとした声で話してね。
「きゅうや、よろしく たんみょうろう~(今日はよろしくお願いします。)」
タブレットに名前を知りたいものの画像が30個入っています。
それを見せながら、「くりや、ぬーだりょん?(これは何ですか?)」と聞いていきましょう。
(フィールドワーク開始!!)
では早速、7つの集落に散らばって、聞き取り調査を開始します。
各集落では、シマぐちの達人たちが温かく迎えてくれました。
川内(かわうち)集落・・・柊介、鈴、佳子
城(ぐすく)集落・・・汐里、律、星
見里(みざと)集落・・・湊、凛、恵
西仲間(にしなかま)集落・・・花楓、あさ葉、幸之助
山間(やんま)集落・・・喜介、手麻、茉音
市(いち)集落・・・爽、聡銘、小梅
下役勝(したやくがち)集落・・・歩、健瑠、衣寿
(昼食!!)
聴き取りが終わったチームから、それぞれ体験交流館に戻って昼食をとりました。
いろんな人と話ができて、とても楽しかったようですね。
(調査結果まとめ)
午後からは聞き取り調査の結果をまとめます。
まずはそれぞれの班のなかで、聞いてきたシマぐちを他の2人にもシェアします。
こんな発音だったかな?確認しながら書いていきます。
次に、大きい聴き取り調査表を指しながら、優子先生が聞いた単語をみんなで一斉に発表します。「どのシマぐちが一番聞こえるか検証していこうと思います。 大きな声で言ってくださいね」
検証の一例
カテゴリ | 言葉 | 主な発見 |
食べ物 | マガキガイ、さつまいもかぼちゃ、大根、 | マガキガイ(とぅびんにゃ、てぃらじゃ)さつまいも(とん、はぬすぃ)違いあり。かぼちゃ(とっつぶる)だいこん(どこね)ほぼ同じ |
動物 | 猫、犬 | 猫(まや)犬(いん)と7集落ほぼ同じ |
人称 | 私、あなた、兄、妻 | 私(わん)、あなた(なん)、妻(とぅじ)ほぼ同じ。兄(あにょ、えへり)と違いあり。 |
体の部位 | あたま、おなか、足 | あたま(かまち、つぶる)違いあり。おなか(わた)、足(はぎ)ほぼ同じ |
同じかな?それともよく聞こえてくるものの他にも、少し違うものが聞こえてくるかな?
〇とっつぶるの謎

かぼちゃ=とっつぶる、あたま=つぶる、と似ています。優子先生が「なんでとっつぶるはとっつぶるっていうと思いますか?」と聞くと、みんなから「頭みたいな形してるから」という答えが返ってきました。
「そうね、頭にもみえるよね。じゃあ“と”はなんで最初についてるかな?かぼちゃは中国から伝わってきた野菜です。昔、中国は唐(とう)と呼ばれていました。それで唐から来たつぶるで“とっつぶる”と言い始めたとも言われているそうです。」
〇方角の謎

東は各集落いろんなパターンが見られました。一番多いのが(あがり、あがれ)他にも(こち、くちぃなど)川内集落ではどちらにも属さない”じゃり”と呼ばれています。
西は、ほぼすべての集落が(いり)と呼んでいました。
優子先生からまた「これはなんでだと思う?」とみんなに聞きました。
「なんであがれっていうのかちゅうと、太陽が上がってくるからね。
太陽は東から昇って、西に沈むよね。太陽が出てくる東を“あがれ”、入っていく西を“いり”と言っているそうです」
〇西が存在しない集落
西の呼び方を確認しいるときに、下役勝集落を調査していた子供たちからこの集落には西という言葉が無いと言っていました。と衝撃の報告がありました。
下役勝集落は、島の内陸に位置しており集落の西側が山で塞がれています。なので「西から風が吹かない。そのため西という概念が希薄で、言葉自体が存在しない」という説明を受けたそうです。とても不思議で面白い話ですね。
〇北なのに西?!
北は(にし)と呼んでいる集落がほとんどでした。
優子先生は、「こんな話があります。大むかし、源平合戦の後、敗れた平家の人たちは、奄美大島にも逃げてきました。いつも誰かが追ってくるとい恐怖感があったと思うんです。なので北!っち言ったら誰かが“来た”と思うんですよ。敵が来たと。島の人は怖がらせないように北をわざと(にし)呼ぶようになったそうです。本当かどうかはわからないけどね」と話してくれました。
-------------
では、このまとめを紙に書き写していきます。
素晴らしいまとめが出来上がりました。

これを1つずつ確認して、優子先生は、7集落すべておなじシマぐちだったところには丸を付けていきました。
(調査結果発表)
それでは、最後に班ごとに結果を発表していきます。
川内(かわうち)集落
山田紘一さんご夫婦にインタビューしました。奥様の好きな島口は「ハゲ~」。嬉しい時にも悲しい時にもびっくりした時にも使える万能な言葉(英語でいうと「Oh my God」的な)。 川内の方言の特徴は「全体的に伸ばして、優しめな言い方」。 ここでも、学校でシマぐちを話すと棒で叩かれたり、バケツを持たされて首から「私は方言を話しました」と札をかけられたそうです。

柊介「境界線たくさんあるな。特に山のところで途切れてるのが不思議だな。」
佳子「シマぐちが上手く書けなかった時、もう一回ゆっくり言ってくれて嬉しかったです」
鈴「川内集落は優しい言い方で伸ばす言い方だけど、城集落とか見里集落とか、他のところはどんな言い方するのか知りたいと思いました」
城(ぐすく)集落
名瀬に最も近い集落。ここではシマぐちをかなり話せる方がいました。インタビューした方は神奈川在住ですが、豊年祭のために島に帰省していました。神奈川では会社を経営しながら奄美出身の社員たちにシマぐちを教えているそうです。たくさんのシマぐちを教えてもらいました。

星「初めに聞いた時はあんまりわかんなかったけど、だんだん聞くにつれて慣れてきて、なんか面白く思えてきた。餅がおいしかった」
律「聞き取り調査がとても楽しくて、もっといろんなシマぐちを知りたいと思いました」
汐里「いろんなシマぐちが知れて楽しかった」
見里(みざと)集落
「おもてなしがすごかった」集落の方々に温かく受け入れてもらえたようです。
一つの単語にたくさんの言い方があることがわかりました。例えば「兄」という言葉だけで4〜5種類もの言い方がありました。発音の面では「伸ばすところをあまり伸ばさない」キュッとした発音が特徴だと思いました。

湊「おじいさんのおもてなしがすごかった。ジュースをいっぱい飲ませてくれた。第一発見村人の人が行き方をやさしく全部教えてくれた」
凛「住用町の中の集落でもそれぞれ言い方が違うのが面白いです」
恵「おじいちゃんの話が細かすぎて結構長かったです」
西仲間(にしなかま)集落
和田美智子さん(83歳)、松田こずえさん(82歳)、廣畑スエ子さん(76歳)にインタビュー。「カレー食べる?」って聞いてくれてとても優しかったです。 ここでも学校でのシマぐち禁止の話を聞きました。首から札をかけて立たされるのが恥ずかしくて嫌なので、早く札を誰かに渡したくて、友達にわざとシマぐちを話させたりして「あ、しゃべったね?」と渡していたそうです。

あさ葉「意外と境界線がわかりやすかったのと、ちゃんと言葉じゃない言葉がいっぱいあったのと、これ本当に日本語なのかを疑ってました。」
花楓「西仲間は『ありがっさまりょうた』を『ありがっさま“あ”りょうた』で、『あ』をちょっと強くいうところが面白いなと思いました」
幸之助「インタビューが終わった後、30分くらいだと思ってたけど、本当は一時間経っていた。楽しかったんだなって思う」
山間(やんま)集落
山間権現にお参りしてから話を伺いました。 5〜6人の方から話を聞き、長く山間に住んでいた人が多かったです。 西仲間集落と言葉が似ているところが多いと感じました。境界線は2つの意見に分かれました。

手麻「小さいとか細かい字がとてもややこしかったです」
茉音「方言が難しかったです」
喜介「南部でも北部寄りの方言があってびっくりしました」
市(いち)集落
住用町の端に位置し、今回一番遠い集落。山下哲次さん(71歳)、用稲ひろたかさん(72歳)、米原幸仁さん(63歳、鹿児島出身)にインタビュー。特徴として「小さいツ(っ)が入る言葉が多く」、書き起こすのが難しい言葉がありました。山下哲次さんは「方言は習うより慣れろ」という格言を教えてくれました。

小梅「マガキガイのことを『てらじゃ』っていうのがなんか面白かったです。自分のところでは『とびんにゃ』と言ってる」
爽「市集落は一番遠かったけど、教えてくれる人が優しくて、発音の仕方とかも細かく丁寧に教えてくれてわかりやすかった」
聡銘「方角の北を西っていうのがややこしかったです」
下役勝(したやくがち)集落
集落名は「しゃーやんがち」と呼びます。もりだりんこさん(75歳)、みつだひさこさん(93歳)、福山春子さん(84歳)から話を聞くことができました。上役勝は「瀬戸内訛り(ひぎゃ訛り)」、中役勝は「なぶられ?」と、おなじ役勝集落の中でさらに細かく訛りが分かれることがわかりました。また、ここでも学校でシマぐちを話すことが禁止されていた時代の話を聞きました。しかし最近では若い世代(お話を聞いた方の孫世代)にシマぐちが得意な子が出てきているそうです。

健瑠「方言が英語みたいで面白かった」
衣寿「いろんな集落に島口がいっぱいあって、いろんなことが勉強できて楽しかったです」
歩「下役勝では『はぬすぃ』ちっちゃい『ぃ』が入ってる。『てぃーつぃ』もそう。英語みたい。」
--------
全グループの発表が終わり、地図上には複数の境界線が引かれました。見里と西仲間の間に5本、西仲間の上に2本、市周辺にもう1本という結果になりましたね。

優子先生がもう1つ地図を取り出しました。地形図を見ると、境界線の位置と三太郎峠の大きな山が重なることが分かります。現在はトンネルで簡単に越えられますが、昔はこの山をずっと上り、下ってようやく隣の集落に着くという難路でした。もっと昔は陸路ではなく船で隣の集落へ行ったと考えられています。山という自然の障壁が言語の境界線を作ったのかもしれませんね。

また、西仲間集落の方に聞いた話で、小正月(1月15日)行う「ナリムチ※」の儀式は西仲間以南では行っていないのだそうです。それも何かシマぐちの境界線につながる気がしますね。※白・赤・黄・緑の4色の餅をリュウキュウエノキ(ブブ木)の枝に飾り付け、家内安全や五穀豊穣(ごこくほうじょう)、商売繁盛などを祈願する伝統行事。
みんなで調べたことが、このような結果になりました。言葉というのは、正しいとか正しくないとかではないので、あいまいではありますがなんとなくの境界線が見えてきました。
子供たちは、集落の方々とたくさんお話できたこともとてもうれしかったようです。

見里、川内、山間、市、下役勝、西仲間、城のみなさま
この度はご協力いただきまして誠にありがっさまありょうた~。
またうがみょ~ろ!(またお会いしましょう)
著作権について
本サイトに掲載されているブログ記事、写真、イラスト、ならびにワークショップで使用・配布された資料およびその内容の著作権は、当法人または各権利者に帰属します。事前の許可なく、これらの内容を複製、転載、改変、再配布、または営利目的で利用することを固く禁じます。




コメント